忘れ得ぬ本と人・『花埋み(はなうずみ)』 渡辺淳一先生
忘れ得ぬ本と人・『花埋み(はなうずみ)』
渡辺淳一先生
女に学問はいらないという風潮の明治初期、医学の道を志した荻野吟子の生涯を描いた作品である。夫に淋病をうつされて離縁された吟子が同じ悩みを持つ女性を救うべく、偏見と障害を乗り越えて女医第一号となる苦難に満ちた生涯を描いた力作である。
この本を通して、この時期、渡辺先生は、同棲していた女の人が逃げ出し、その部屋を突き止めて斧で窓やドアを叩き割り、駆けつけた警察官に逮捕され留置場に拘留される。それでも懲りずふたたび逃げ出した女性の居場所を突き止め、ドアチェーンを壊して部屋に乱入、再び逮捕されて拘置所に勾留される。一方、札幌から渡辺先生を追いかけてきた女優が渡辺先生のマンションで自殺未遂をはかるなど、愛の修羅場に取り憑かれて狂い回っていたということを知った。
テストパイロットは、今も座右の本として読み返している。
テストパイロットが、小説家になりたいと渡辺先生に恐る恐る言うと、この「わたしの中の、もう一人のわたし」と墨痕鮮やかに色紙に書いてくれた。