テストパイロットの毒言独語 第2話・『メバルのみそ汁を飲むと、乳がよく出るどぉー』

テストパイロットの毒言独語

          第2話・『メバルのみそ汁を飲むと、乳がよく出るどぉー

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メバルのみそ汁を飲むと、乳がよく出るどぉー」
 30年前、子どもが生まれたとき、父親はメバルを釣ってきては、こう言いながら手渡してくれた。初孫誕生でうれしかったのだろう。
 なんでメバルのみそ汁、と思いながら、その理由を聞かずじまいである。
 ちょうどそのころ、職場の先輩のMさんが、仕事が終わると波止場でメバルを釣っているのを知った。
テストパイロットが、メバル釣りに連れて行って欲しいと頼むと、Mさんは笑みを浮かべながら、釣りなどしたことのなかったテストパイロットに、竿の選定から仕掛け、餌となるエビの捕り方、メバルの釣り方など親切に教えてくれた。
 メバル釣りは、まずその日の餌となるエビを捕りに山間の池に行く。目の細かいタマで、池の岸の石垣の隙間にいるシラサエビというのをすくうのである。ある日のこと、池の岸を探りながら歩いていると、畑にいたおじいさんが、手を振り回しながらテストパイロットに向かって大声で何か叫んでいた。6月に入ると毒蛇であるマムシが産卵期に入り気性が荒くなる。ゴム長靴も履かず、岸辺のマムシの巣の近くでタマを入れていたテストパイロットに注意をしたのである。無知というものは恐ろしい・・・これ以来、テストパイロットは恐ろしくなり、餌は釣具店で購入することにした。
 夜の波止場に竿を出して、ウキソメバルを釣るのは楽しかった。キュンと竿の穂先が鳴き、ブルブルという手応えとともにメバルがあがってくると心が躍った。食いが悪くなると、どちらからともなく、暗い海を眺めながら職場や上司への不満に話の花が咲いた。
 そんな日々も長くは続かなかった。夏を過ぎるとMさんは体調を崩して仕事を休みがちになり、高松にある県立中央病院に入院することになった。病名は結核であった。
 Mさんが入院するとともに、釣りの先導者を失ったテストパイロットは、メバルを釣ることをやめてしまった。
 半年ほど入院して職場復帰したMさんもまた、釣りをやめてしまった。
 三年前、Mさんは亡くなった。未だ65歳という若さであった。
メバルのみそ汁を飲むたびに、「メバルのみそ汁を飲むと、乳がよく出るどぉー」と言っていた父親と、メバルの夜釣りに連れて行ってくれたMさんの温容な顔を思い出す。

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