『職人衆昔ばなし』 斉藤 隆介著 文春文庫

 
イメージ 1
 
 『職人衆昔ばなし』 
                                                      斉藤 隆介 
                                       文春文庫 
  1959年に雑誌『室内』に掲載され、67年に文藝春秋社から単行本として、79年に文春文庫となったもので、奥付を見ると1979年8月25日第1刷となっている。たぶん大学生の頃に購入したものと思う。
 諸職のかしらである大工からはじまって建具・左官・畳・瓦・鳶・石工のいわゆる六職、庭師・指物師塗師屋・竹細工・家具木工・硝子工芸・飾り師・蒔絵・螺鈿表具師など、人間国宝から市居に生きる、その道一筋の27人の職人からの聞き書きである。
 「今のように労働基準法や民主主義だの言ってたんじゃァ、仕事が半チクになっちまわァ」と口をそろえていう明治生まれの職人の姿は、今ではもう見ることができない。
 10歳から12歳ぐらいで小僧に入り、年季があけるまでの約10年間の、今なら労働基準局や人権団体が飛んでくる雀の涙の給金と労働条件の末、体で覚えた技術とコツ、「我が身は大事だが、仕事と職人の面目はもっと大事」・・・今の日本人が忘れ去ろうとしている、あるいはもうすでに忘れ去ってしまっているかもしれない、物作りの精神が生きていたように思う。
 わたしは、大学へ行かせてもらい、勤め人となったが、小学生から中学生にかけて、祖父の舟の梶子(舟の櫓を漕ぐ子ども)として沖に出ていた。今、小学生を梶子として使うと、児童虐待、子どもの人権侵害と法務局や児童福祉団体、警察が問題にするであろうが、祖父や父から怒鳴りつけられ、叩かれながら覚えた櫓を漕ぐことは、今も体が覚えている。
 この本を読むたびに、祖父を、父を思う。
 大切にしている一冊である。